那智勝浦ユニバーサルビーチ参加レポート

―「あきらめなくていい海」がここにあった―

2025年7月6日、和歌山県那智勝浦町のブルービーチ那智にて開催された「ユニバーサルビーチプロジェクト」に参加しました。
このプロジェクトは、「すべての人に海を楽しむ機会を」という理念のもと、障がいのある方や高齢者、小さな子ども連れの家族など、海を“あきらめていた”人々も安心して楽しめる環境を整える取り組みです。

今回、医療的ケア児や重症心身障がい児の家族を支援しているNPO法人near(新宮市)の代表・加藤亜里沙さんからお声がけをいただき、現地を訪れることとなりました。

笑顔があふれる海へ

開会式が行われた午前9時半には、すでに多くの参加者がビーチに集まり、順番に海へと入っていきました。

実は私自身、ユニバーサルビーチについての予備知識がないまま参加しており、「どんな風に海に入るのだろう」と不安もありました。
しかし、実際に目にしたのは、水陸両用車いすを使って海に入る子どもたちと、それを支えるスタッフたちの真剣なまなざし、そして何より、波と戯れる子どもたちの笑顔と、それを見守る家族のまなざしでした。

プロジェクトの原点に触れて

この取り組みを推進してきたのが、NPO法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの代表理事・木戸俊介さんです。
公式サイトに掲載された木戸さんのメッセージは、支援の在り方を根本から問い直すものでした。

「ケガがなかったら…」ではなく、
「ケガがあったからココまで来れた」と言える人生にしよう。

「障がいがあるから海をあきらめる」のではなく、
「どうしたらできるか」を、中心に据えて考える。

実際、海に入る際の声かけや、まわりへの配慮、チームで支え合う姿勢のなかに、「みんなで海に入ろう」という強いメッセージが込められていました。

小さな一歩の積み重ねが、今日をつくる

near代表の加藤さんに、お話をうかがいました。

「今回参加されたお母さんたちは、はじめから前向きだったわけではないんです。
『やってみたい』という気持ちを、少しずつ丁寧に育ててきました。
最初にこの海を訪れた時は、バギーが砂浜に進めず、やっとの思いで波打ち際にたどり着いた。
それでも楽しかった。その時『いつかこんな日が実現できたら』と思ったことが、今日実現したんです」

この「少しずつ」「丁寧に」という言葉に、継続の力と、希望の芽を感じました。

“つながる”ということ

以前、私は加藤さんに「地域とつながること」について尋ねたことがあります。その際に頂いたお返事の内容を、以下にご紹介します。

お世話になっております。
NPO法人nearの加藤亜里沙です。

このたびはご丁寧なご連絡をいただき、誠にありがとうございます。
また、私たちの活動に関心をお寄せいただきましたこと、心より感謝申し上げます。

ご質問の「つながること」について、私たちnearの経験から感じていることを、以下にお伝えさせていただきます。

医療的ケアが必要な子どもや、重い障がいのある方々、そしてそのご家族は、地域のなかでも見えにくく、孤立しやすい現実があります。
そうしたご家族が、地域のなかであたりまえに暮らしていける社会をつくるために、私たちnearは、あえて当事者だけでなく、地域の方々を巻き込むかたちで活動を続けてきました。

想いに寄り添ってくださる方であれば、職業や年齢、性別を問わず、誰でもwelcomeです。
いろんな立場や背景の人たちが、nearという場を通して関わってくださることで、見えなかったつながりが少しずつ形になり、ご家族やこどもたちの社会との接点が広がっていくのを実感しています。

“つながる”とは、「助ける/助けられる」といった一方通行ではなく、
「ともに生きる」「ともに地域をつくっていく」関係を育むこと。
その人がその人らしく暮らせる社会を、一緒に築いていくことだと感じています。

有田川町の皆さまが、「まず知ってもらうこと」から丁寧に取り組まれていることに、深く共感しております。
このメッセージが、少しでも皆さまのこれからの歩みに寄り添うことができたら幸いです。

どうぞ今後とも、よろしくお願いいたします。

NPO法人near
代表理事 加藤亜里沙

このユニバーサルビーチの場こそ、まさにその言葉の体現でした。

最後に

あの海には、「あきらめなくていい」という実感がありました。
それは、支援が行き届いた理想の環境というより、誰かの「やってみたい」という気持ちに、誰かが「一緒にやってみよう」と応えた結果、生まれた場でした。

そして何よりも心に残ったのは、障がいの有無を超えて“みんなで笑い合う”という、ごく自然な風景でした。
このような「できる方法を一緒に探す社会」が、もっと広がってほしいと心から願います。