医療的ケア児等支援に関する視察報告

令和7年6月5日水曜日

このたび、医療的ケア児等コーディネーターを担当するにあたり、個別支援や関係機関との連携を通じて、地域の支援体制構築に取り組んでいます。

その中で、ひとつの相談事例をきっかけに、医療的ケア児等総合支援事業の必要性を強く感じ、有田川町として令和8年度からの事業実施を検討しています。今回は事業化に向けた課題整理の一環として、先進地の取組を学ぶため、新宮市を訪問する機会を頂きましたので、以下の通り報告いたします。

訪問先

  • 新宮市役所 子育て推進課

視察内容の概要

新宮市では、医療的ケア児を対象としたレスパイト事業をはじめ、災害時の避難体制の整備にも取り組まれており、地域の避難所を指定し、ポータブル電源や災害時に必要となる物品を衣装ケースに入れて避難所で保管するなどの取り組みを進めておられます。これらの取組は、保護者からも高く評価されているとのことでした。

また、制度運用においては課題も多いものの、保護者の声を丁寧に拾いながら、事務担当者とコーディネーターが二人三脚で柔軟な対応を模索されている姿勢が印象的でした。

有田圏域との比較と共通課題

有田圏域でも、医療的ケア児支援に対する市町間の温度差や、自立支援協議会における議論の深まりに課題がある状況ですが、新宮市を含む東牟婁圏域でも同様の悩みを抱えており、非常に共感を覚える点が多くありました。

保育所受け入れに関する動き

  • 看護師を配置し医療的ケア児を受け入れている保育所がある一方で、2人目の看護師配置に向けた体制整備が今後の課題となっています。

多機関連携に関する課題

  • 教育現場との情報共有が進まず、誤解や不信感が生じる場面がある。
  • 自立支援協議会等において、実効性のある議論や連携がなかなか進まない現状がある。

今後に向けた意見交換

新宮市の担当者と以下のような意見交換を行いました。

  • 本人・保護者の声をもとに、制度ありきではない柔軟な支援体制を構築する必要がある。
  • 保育所・学校・医療機関を含めた地域全体の体制整備が不可欠である。
  • 福祉・教育・医療の縦割りを超えた横断的な仕組みづくりと、地域全体の理解促進が求められる。

有田川町の担当者として、今回の視察で感じた支援の熱量を決して冷ますことなく、たとえ小さな一歩であっても次の行動につなげていきたいと考えています。

医療的ケア児が安心して地域で暮らせること。保護者が孤立することなく支え合えること。そして、支援者が誇りを持って関われるような地域づくりを目指します。

ご協力いただいた方々

  • 新宮市役所 子育て推進課 谷 係長
  • 新宮市 医療的ケア児等コーディネーター 佐藤 様
  • 和歌山県 相談体制整備事業アドバイザー 花村 様

医療的ケア児支援に関する実態データ

(出典:厚生労働省「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」、文部科学省「学校における医療的ケアに関する実態調査」)

◆ 医療的ケア児の増加と背景

2020年の厚生労働省による推計では、自宅で生活する医療的ケア児の数は全国で18,951人とされています。
これは10年前(2005年度:約8,000人)と比べて約2.2倍に増加しており、医療の進歩により救命率が高まる一方で、退院後も継続的な医療的ケアを必要とする子どもが増えている現状を表しています。

◆ 介護の中心は母親に偏重

医療的ケア児の主な介護者のうち、97.3%が母親とされており、多くの家庭で母親が日常のケア、外出時の付き添い、各機関との調整などを一手に担っている実態があります。
これは家庭内の負担が特定の人物に集中していることを示し、保護者の肉体的・精神的な疲労、社会的孤立を招く要因となっています。

◆ 保護者付き添いの必要性

文部科学省の調査によれば、保育園・幼稚園・学校に通う医療的ケア児のうち、約19.4%の児童生徒が登園・登校時に保護者の付き添いを必要としているとされています。
特に、医療的ケアに対応できる看護師や教職員が十分に配置されていない地域では、保護者の同伴がなければ通学できないというケースもあり、保護者の就労や日常生活への影響も大きくなります。

◆ レスパイト支援の不足

家族の休息を目的とした短期入所(ショートステイ)や訪問看護などのレスパイト支援については、制度があっても「使えない」「使いにくい」といった声が多く寄せられています。

  • たとえば、医療的ケアに対応できる短期入所施設が地域に存在しない
  • 受け入れ条件が厳しく、予約が取りにくい
  • 夜間対応や緊急対応に限界がある
    といった理由で、実際の利用率は依然として低水準にとどまっています。

これらの実態から、医療的ケア児とその家族が安心して地域で暮らせるための「支援体制の構築」と「支援者の確保」が急務であることが分かります。
今後は、家庭任せになっている支援のあり方を見直し、福祉・医療・教育が連携して対応していく「地域全体の仕組みづくり」が求められています。